2026年2月、ミラノ・コルティナ五輪のフィギュアスケート・ペアで歴史的な瞬間が訪れました。
「りくりゅう」こと三浦璃来・木原龍一組が、ショートプログラム5位からの大逆転でペア日本史上初の金メダルを獲得したのです。
フリーで叩き出した158.13点は世界歴代最高得点。
この偉業を支えたのが、圧倒的な完成度を誇るジャンプ技術でした。
「りくりゅうのジャンプはなぜそこまで高く評価されるのか」「ペアのジャンプとシングルは何が違うのか」「木原選手はかつてジャンプが苦手だったって本当?」といった疑問を抱いている方は多いのではないでしょうか。
この記事では、りくりゅうペアが演技で実施するジャンプの種類や構成、他ペアとの比較、ミスが起きた場面の分析、そして木原選手のシングル時代の知られざる苦悩まで、あらゆる角度からジャンプ技術の全貌を掘り下げていきます。
りくりゅうペアのジャンプが世界最高得点を生んだ理由
りくりゅうペアがフリーで世界歴代最高得点を記録できた最大の理由は、すべての技術要素をノーミスで遂行し、ジャッジから極めて高い評価を引き出した点にあります。
基礎点の高さではなく、一つひとつの技の「質」で他を圧倒するスタイルが、歴史的な得点につながりました。
フリー158.13点の内訳に見るジャンプ要素の得点構造
ミラノ五輪のフリーで記録した158.13点は、技術点82.73点と演技構成点75.40点の合算です。
技術点の内訳をさらに細かく見ると、全11要素の基礎点合計は62.50点でした。
ここに出来栄え点(GOE)として20.23点が加算されています。
ジャンプ関連の要素に限ると、3連続ジャンプシークエンス(3回転トウループ+2回転アクセル+2回転アクセル)が基礎点10.80にGOE 1.20で合計12.00点、スロー3回転ルッツが7.27点、スロー3回転ループが6.93点、後半の3回転サルコウが5.47点を獲得しました。
トリプルツイストリフトも含めれば、ジャンプ系の要素だけで40点近い得点を積み上げた計算になります。
基礎点よりも出来栄え点で圧倒する独自の戦略とは
木原選手自身が「そこまで難しいことはやっていない」と語っているように、りくりゅうの戦略は技の難易度を極限まで高めることではありません。
実際、ミラノ五輪フリーにおける全要素の基礎点合計を比較すると、2位のジョージア組との差はわずか0.1点しかありませんでした。
では何が違うのかといえば、GOEの差です。
りくりゅうのGOEは20.23点に達し、基礎点の約32%に相当する加点を得ています。
11要素の平均でGOE+1.8以上という数値は、すべての技を高い完成度でこなした証拠にほかなりません。
基礎点を追い求めるのではなく、「確実に実施できる構成を完璧に仕上げる」という方針こそが、世界最高得点を生んだ独自の戦略でした。
9人のジャッジ全員が高評価を付けた一貫性の背景
注目すべきは、採点に偏りがなかった点です。
演技構成点の3項目(構成・表現・スケートスキル)において、9人のジャッジ全員がそれぞれ9点以上を付けました。
GOEについても、ジャッジの間で大きな差は見られず、中には満点を与えた審判もいたと報じられています。
こうした一貫性のある高評価が得られた背景には、りくりゅうのスケーティングスピードが他ペアより一段階速く、高難度の技を実施する際にもほとんど減速しないという「リンクカバー率」の高さがあります。
見る者の主観を超えた、客観的に明らかな技術の優位性が、ジャッジの全会一致に近い評価につながったのです。
りくりゅうが演技で実施するジャンプの種類と構成
ペア競技のジャンプには、2人が並んで同時に跳ぶ「サイド・バイ・サイド・ジャンプ」、男性が女性を投げ出す「スロージャンプ」、男性が女性を空中に放り上げてキャッチする「ツイストリフト」の3種類があります。
りくりゅうはこれらすべてを高水準でこなすことで、ジャンプ要素全体の得点を底上げしています。
3回転トウループから始まる3連続ジャンプの難しさと完成度
りくりゅうがフリーの序盤で実施する3連続ジャンプシークエンスは、3回転トウループ+2回転アクセル+2回転アクセルという構成です。
基礎点10.80にGOE 1.20が加わり、合計12.00点を獲得しました。
このジャンプの難しさは、2人が近い距離を保ちながら3つのジャンプを連続で跳ぶ必要がある点にあります。
ペアの3連続ジャンプは、左足をついて跳ぶ際のタイミングが一瞬でもずれると減点につながります。
離れすぎても近づきすぎてもいけないシビアな距離感の中で、最後の1本までぴたりと揃える技術は、一般的に非常に高い評価を受けているポイントです。
スロー3回転ルッツとスロー3回転ループの違いと見どころ
りくりゅうのフリーには、スロー3回転ルッツとスロー3回転ループという2種類のスロージャンプが組み込まれています。
スロージャンプとは、木原選手が三浦選手を投げ出し、三浦選手が空中で回転して着氷する技のことです。
ルッツは左足のアウトサイドエッジで踏み切るジャンプで、基礎点5.30とスロージャンプの中では最も高い配点が設定されています。
一方、ループは右足で踏み切り、基礎点は5.00です。
りくりゅうのスロージャンプの最大の見どころは、飛距離の長さと着氷後の流れにあります。
近年のシーズンでスロージャンプの精度が大幅に向上し、着氷後に失速しなくなった点が出来栄え点の加点に直結していると、専門家の解説で繰り返し指摘されています。
冒頭のトリプルツイストリフトはなぜ高い加点を得られるのか
フリー演技の最初の要素として実施されるトリプルツイストリフトは、基礎点5.70にGOE 2.12が加わり7.82点を獲得しました。
ツイストリフトは、木原選手が三浦選手を空中に放り上げ、三浦選手が3回転して木原選手がキャッチするという技です。
りくりゅうのツイストリフトが高い加点を得られる理由は、まず「高さ」にあります。
三浦選手が到達する最高点が他ペアと比べて明らかに高く、滞空時間が長いため回転に余裕があるのです。
加えて、木原選手のキャッチの安定性も評価ポイントとなっています。
演技冒頭でこの大技を成功させることで会場の雰囲気を一気に盛り上げ、演技全体に勢いをもたらす役割も果たしています。
後半に組み込む3回転サルコウの戦略的な意味
フリーの後半に配置された3回転サルコウは、基礎点4.30にGOE 1.17が加わり5.47点を獲得しています。
ペアのフリーでは、後半に実施するジャンプの基礎点が1.1倍になるルールが適用されます。
つまり3回転サルコウを後半に配置することで、わずかながら基礎点を上乗せできるのです。
りくりゅうはこのルールを戦略的に活用し、比較的安定して跳べるサルコウを後半に回しています。
体力が消耗する演技終盤でも確実に成功させられるジャンプを選んでいる点に、完成度重視の姿勢が如実に表れているといえるでしょう。
りくりゅうのジャンプにおける同時性と成功率の高さ
ペア競技のジャンプで最も重視される評価基準のひとつが「ユニゾン」、すなわち2人の動きの同時性です。
りくりゅうは、この同時に跳ぶ精度と、シーズンを通じた高いジャンプの成功率で、世界のトップに立っています。
サイド・バイ・サイドジャンプで求められる同時のシンクロ率とは
サイド・バイ・サイドジャンプとは、2人が横に並んで同じジャンプを同時に跳ぶ要素です。
採点においては、踏み切りのタイミング、ジャンプの高さ、回転速度、着氷の瞬間がどれだけ揃っているかが厳密に評価されます。
りくりゅうの場合、踏み切りから着氷までのすべてのフェーズでほぼ完璧にシンクロすることが知られています。
3回転トウループを含む3連続ジャンプでは、3本すべてのジャンプでタイミングがぴたりと合っており、一般的にも「シンクロ率が異常に高い」と評されています。
この同時性の高さは、GOEで加点を得るための大きな武器になっているのです。
シーズン通算で見るジャンプ成功率が他ペアを上回るデータ
りくりゅうの強みとしてしばしば挙げられるのが、ジャンプ要素の成功率の高さです。
ミラノ五輪シーズン全体を通じて、りくりゅうはサイド・バイ・サイドジャンプとスロージャンプの両方で極めて高い成功率を維持しました。
今大会でも4回の演技(団体SP・FS、個人SP・FS)のうち3回で自己ベストを更新しており、プレッシャーのかかる大舞台でもジャンプの安定性が揺らがないことを証明しています。
ジャンプの安定性と高い成功率こそが、出来栄え点で他ペアを大きく引き離す原動力になっています。
着氷後に失速しないスロージャンプの精度が向上した理由
りくりゅうのスロージャンプは、以前と比べて飛距離が大きく伸びたことに加え、着氷後の流れが格段にスムーズになったと指摘されています。
元ペア選手として五輪に出場した経験を持つ解説者は、「スロージャンプの精度が向上し、着氷後に失速しなくなった」と技術面の成長を高く評価しました。
この進化の要因としては、木原選手が三浦選手を送り出す際の角度とパワーのコントロールが安定したこと、そして三浦選手自身の空中姿勢の改善が挙げられます。
さらに、後述する国産ブレードへの変更によって着氷時の安定感が増したことも、無視できない要素です。
りくりゅうのジャンプで転倒やミスが起きる場面とその原因
どれほどの実力者であっても、フィギュアスケートにおいてミスや転倒を完全に避けることはできません。
りくりゅうもシーズンを通じていくつかのミスを経験しており、その原因を分析することで、ペアジャンプの難しさがより深く理解できます。
ミラノ五輪SPでリフトミスが起きたわずかなタイミングのズレ
ミラノ五輪のショートプログラムで、りくりゅうは73.11点にとどまり5位に沈みました。
原因は得意としていたリフトでのミスです。
木原選手が三浦選手を持ち上げる際にバランスを崩し、本来レベル4を取れる技がレベル2にとどまりました。
リフト単体の得点はわずか3.90点。
解説を務めた元五輪代表の指摘によると、「違うタイミングで動き始めてしまい、グリップがブレた」ことが直接的な原因でした。
木原選手自身も「少しズレてしまうと今回のようになる」と語っています。
試合中にリフトでミスが出ること自体が「なかなかないこと」と評される木原選手だけに、大舞台特有のプレッシャーが影響した可能性があります。
スケートアメリカで出たジャンプミスと木原が語った改善点
2025年11月のスケートアメリカでは、2人が揃って跳ぶサイド・バイ・サイドジャンプでミスが発生し、SP2位発進となりました。
演技後、木原選手は「確認作業が足りていなかった」と厳しい表情で振り返っています。
ペアのジャンプは、個人の技術だけでなく2人のコミュニケーションの質が成否を左右します。
踏み切り直前のアイコンタクトや呼吸の合わせ方など、微細な確認プロセスが欠けるとミスにつながるのです。
このシーズン序盤の経験が、五輪本番での完璧な演技へとつながる貴重な教訓になりました。
三浦の左肩脱臼がスロージャンプの練習に与えた影響
2025年12月の全日本選手権で、三浦選手はSP直前の公式練習中に左肩を脱臼するアクシデントに見舞われました。
SPには強行出場したものの、フリーは棄権を余儀なくされています。
左肩の負傷は、スロージャンプの練習に直接的な影響を及ぼします。
木原選手に投げ出される際、三浦選手の肩には大きな負荷がかかるためです。
しかしチームは五輪までの期間を活用し、肩関節周りの筋力トレーニングを徹底的に強化しました。
結果として、りくりゅうはミラノ五輪がシーズン後半のぶっつけ本番のような状況にもかかわらず、怪我を感じさせない力強い演技を披露することに成功しています。
りくりゅうはジャンプが苦手だったのか|木原龍一の知られざる過去
金メダリストの輝かしい姿からは想像しにくいかもしれませんが、木原龍一選手にはジャンプに苦しんだ時代がありました。
シングル選手として活動していた頃の経験が、現在のペアスケーターとしての強さの土台になっています。
シングル時代に成長痛でジャンプの回転数を増やせなかった苦悩
木原選手は4歳でスケートを始め、ジュニア時代は男子シングルの全日本選手権に出場する実力者でした。
しかし高校に進学すると、成長痛の影響でジャンプの回転数を増やすことに大きく苦労します。
恩師によれば、「周りの選手に比べると体が大きかったため、高回転ジャンプの習得が困難だった」とのことです。
シーズンが終わると「しばらく休みます」と告げて1カ月ほど練習に姿を見せず、音信不通になることもあったといいます。
ジャンプへの苦手意識と向き合い続けた日々は、決して順風満帆なものではありませんでした。
ペア転向の決断とジャンプへの苦手意識を克服した肉体改造
シングルでジャンプの壁に直面した木原選手は、20歳でペア競技への転向を決断します。
しかしペアへの移行も簡単ではありませんでした。
転向当初は「非力くん」と呼ばれるほど筋力が足りず、パートナーを持ち上げることすら精一杯だったのです。
そこから食事量を大幅に増やし、筋力トレーニングを徹底して肉体改造に取り組みました。
服のサイズがSからXLに変わるほどの劇的な変化を遂げ、ペア選手として求められるフィジカルの基盤を築いています。
28歳頃まではアルバイトをしながら競技を続けるなど、経済的にも厳しい時期が続きました。
三浦璃来との出会いが変えたジャンプとスケートへの向き合い方
木原選手の人生を一変させたのが、2019年7月の三浦璃来選手との出会いです。
引退も頭にあった木原選手は、新たなパートナーを探していた三浦選手とトライアウトを実施しました。
初めてツイストリフトを合わせた瞬間、周囲の関係者は驚きの声を上げたと伝えられています。
木原選手自身も「雷が落ちた」と当時の感覚を振り返っています。
三浦選手との相性の良さにより、ジャンプを含むすべての技において自然な息の合わせ方が可能になり、ペアとしてのパフォーマンスは飛躍的に向上しました。
かつてジャンプが苦手だった選手が、ペア競技のジャンプで世界最高得点を生み出すまでに至った背景には、パートナーとの運命的な出会いがあったのです。
りくりゅうのジャンプを支える道具と環境の進化
世界最高のパフォーマンスを実現するためには、選手の努力だけでなく、道具や練習環境といったインフラも重要な役割を果たします。
りくりゅうの足元を支えるブレードと、練習拠点の進化について見ていきます。
名古屋の町工場が作る国産ブレードがジャンプの安定性を変えた
りくりゅうが使用しているのは、名古屋市緑区にある山一ハガネが製造する国産ブレード「YSブレード」シリーズの「翔」です。
このブレードはジャンプとスピード技術に特化した設計がなされており、元々は宇野昌磨選手も愛用していたことで知られています。
木原選手がこのブレードを試したところ、「ワンプッシュでの滑りが違う」「ブレードの心配をしなくてよくなった」と高く評価し、三浦選手にも使用を勧めました。
ジャンプの踏み切りから着氷までの安定感が増したことで、GOEの向上にも寄与しています。
ペア男子特有の負荷に耐える特製ブレードの技術的な特徴
ペアの男子選手は、自分自身の体重に加えてパートナーの体重も支える必要があります。
リフトやスロージャンプの着氷時にはブレードに非常に大きな衝撃がかかるため、従来使用していた海外製ブレードは数週間で曲がり、頻繁に交換しなければなりませんでした。
山一ハガネのブレードは、自動車部品製造で培った鋼材加工技術を応用し、頑丈さと滑走性能を高い次元で両立しています。
ブレードの耐久性が向上したことで、木原選手は道具の不安から解放され、技術の追求に集中できるようになったのです。
神戸の通年型リンク開設がペア練習環境にもたらした変化
りくりゅうの練習拠点である「シスメックス神戸アイスキャンパス」は、2025年6月に神戸市中央区にオープンした通年型スケートリンクです。
国際規格を備えたこの施設の存在により、カナダを拠点としていた時期と比べて、国内で質の高い練習を継続しやすい環境が整いました。
ペア競技の練習には広いリンクと十分な練習時間の確保が欠かせません。
専用の環境で日常的にスロージャンプやリフトの精度を磨けるようになったことは、ミラノ五輪での完璧な演技を実現する上で大きな下支えとなっています。
りくりゅうと他の世界トップペアのジャンプ技術を比較
りくりゅうのジャンプ技術の真価は、他の世界トップペアとの比較によってより鮮明になります。
ここでは、ミラノ五輪の上位ペアとの得点差、歴代記録との比較、そして採点に対する議論を整理します。
基礎点の差はわずか0.1点|勝敗を分けたのは完成度だった
ミラノ五輪フリーの上位3組を比較すると、技術面の差は以下の通りです。
| 項目 | りくりゅう(金) | ジョージア組(銀) | ドイツ組(銅) |
|---|---|---|---|
| 技術点 | 82.73 | 76.28 | 69.82 |
| 演技構成点 | 75.40 | 70.01 | 69.26 |
| FSスコア | 158.13 | 146.29 | 139.08 |
| 合計 | 231.24 | 221.75 | 219.09 |
りくりゅうとジョージア組の基礎点差がわずか0.1点であったにもかかわらず、技術点全体では6.45点の差がつきました。
この差のほぼすべてが出来栄え点によるもので、ジャンプを含む全要素の完成度がいかに重要かを如実に示しています。
歴代FS最高得点ペアとのジャンプ構成と加点の違い
りくりゅうが更新したFS世界歴代最高得点の推移は以下の通りです。
| 順位 | 選手 | 得点 |
|---|---|---|
| 1位 | 三浦璃来/木原龍一(日本) | 158.13 |
| 2位 | ミーシナ/ガリャモフ(ロシア) | 157.46 |
| 3位 | 隋文静/韓聡(中国) | 155.60 |
ロシアや中国のトップペアはより難易度の高い技を構成に取り入れる傾向がありますが、りくりゅうは技の完成度とスケーティングの質で差を生み出すアプローチを採っています。
中国の隋文静・韓聡組との交流が木原選手の技術力向上に寄与したとも報じられており、世界のトップペアから学んだ経験がこの記録を支えています。
ロシア側から上がった採点批判と銀銅メダリストの反論
りくりゅうの158.13点に対し、ロシアの一部選手が「158点はこのペアに対して明らかにやりすぎだ」と批判しました。
ロシアはウクライナ侵攻に伴う制裁の影響で主力ペアの多くが国際大会から遠ざかっている状況にあり、こうした批判の背景には複雑な事情があります。
一方で、銀メダルのジョージア組や銅メダルのドイツ組は「彼らは得点に値する」と明確に擁護の姿勢を示しました。
ロシアの重鎮タラソワ氏もりくりゅうの演技を絶賛しており、ロシア国内でも評価は割れています。
ジャッジ9人全員が一貫して高い点数を付けた事実は、採点の正当性を裏付ける強い根拠となっているでしょう。
りくりゅうが達成した記録とジャンプの歴史的意義
ミラノ五輪でのりくりゅうの金メダルは、単なる1大会の勝利にとどまらない、複数の歴史を塗り替える偉業でした。
ジャンプ技術を中心に積み上げた得点が、フィギュアスケート界にどのようなインパクトを与えたのかを振り返ります。
FS世界歴代最高得点と五輪史上最大の逆転劇の関係
りくりゅうがフリーで記録した158.13点は、それまでの世界最高記録であったロシア組の157.46点を0.67点上回る新記録です。
この圧倒的なフリーの得点があったからこそ、SPでの6.90点差を逆転できました。
現行の採点方式が導入された2006年トリノ五輪以降、ペア競技のSPからフリーで逆転優勝した最大点差はそれまで5.80点でした。
りくりゅうの6.90点差逆転は、この記録をも大幅に塗り替える五輪史上最大の逆転劇となったのです。
羽生結弦以来のゴールデンスラム達成に至る道のり
りくりゅうはミラノ五輪の金メダル獲得により、五輪・世界選手権・四大陸選手権・GPファイナルの主要4大会すべてを制覇する「ゴールデンスラム」を達成しました。
日本のフィギュアスケート選手としては、羽生結弦以来2例目の快挙です。
2022-23シーズンにGPファイナル・四大陸選手権・世界選手権を同一シーズンで制する「年間グランドスラム」を達成した時点で、残る称号は五輪金メダルのみでした。
2019年のペア結成からわずか7シーズンで到達した頂点は、長年の努力と研鑽が結実した金字塔といえます。
日本ペア史上初の金メダルが次世代に残すもの
りくりゅう以前、日本のペア競技は長年にわたり世界の壁に阻まれ続けてきました。
五輪でのメダル獲得すら遠い目標とされてきた中で、いきなり金メダルを掴んだ衝撃は計り知れません。
同じミラノ五輪に出場した長岡柚奈・森口澄士組のような次世代ペアの存在も注目されており、りくりゅうの成功は日本のペア競技全体の発展を促す起爆剤になる可能性を秘めています。
練習環境の整備やブレード技術の進化と合わせて、日本のペアスケートが新たな時代を迎えつつあるのです。
りくりゅうのジャンプに関するよくある疑問まとめ
りくりゅうのジャンプについて、読者から特に多く寄せられる疑問に答えていきます。
ペア競技ならではのルールや技術的な背景を理解することで、演技の見方がより深まるはずです。
ペア競技のジャンプとシングルのジャンプは何が違うのか
最大の違いは「2人で跳ぶ」という点にあります。
シングルでは個人の跳躍力と回転技術だけが問われますが、ペアではそれに加えて2人の同時性、つまりタイミング・高さ・着氷のシンクロが評価対象となります。
さらにペアにはシングルにない「スロージャンプ」と「ツイストリフト」が存在します。
スロージャンプは男性が女性を投げ出しながら跳ばせる技で、女性は自分のジャンプ力ではなく男性の投げる力を利用して回転します。
こうした複合的な要素があるため、ペアのジャンプはシングルとは全く異なるスキルセットが求められるのです。
りくりゅうはなぜ4回転ジャンプを入れないのか
現在のペア競技において、4回転ジャンプを演技に組み込むペアはほぼ存在しません。
ペアでは男女が同時に4回転を跳ぶ必要があるため、女性側にも4回転の技術が求められ、実現のハードルが極めて高いのです。
りくりゅうの戦略は「確実に実施できる構成をノーミスで遂行し、GOEで加点を最大化する」というものです。
リスクの高い4回転を入れてミスが出るよりも、3回転の技を完璧に仕上げて全要素で高い加点を得る方が、最終的な得点では有利になるケースが多いのが現在のペア競技の実情です。
今後さらに技術的な進化は期待できるのか
ミラノ五輪では4回の演技中3回で自己ベストを更新したことからも分かるように、りくりゅうの技術は今なお進化を続けています。
木原選手は33歳という年齢ではありますが、パフォーマンスの低下は現時点で見られません。
スロージャンプの精度向上やリフトの安定性の改善が年々進んでいることを考えると、技術的な成長の余地はまだ残されていると考えるのが自然でしょう。
今後の課題としては、SPでの安定性の向上が挙げられます。
完成度で勝負するスタイルは、1つのミスが順位に直結するリスクを伴うため、大舞台でのメンタル面を含めた総合的な強化が鍵を握ることになります。
まとめ:りくりゅうのジャンプ技術が示すペア競技の未来
- りくりゅうのフリー158.13点は全11要素をノーミスで遂行し、GOEだけで20点以上を獲得した世界歴代最高得点である
- 基礎点では他トップペアとほぼ差がなく、出来栄え点と演技構成点で圧倒する完成度重視の戦略を採用している
- 3回転トウループから始まる3連続ジャンプシークエンスは、2人の同時性と距離感の精度が極めて高い
- スロー3回転ルッツとスロー3回転ループの2種類を組み込み、飛距離と着氷後の流れで加点を稼いでいる
- 木原選手はシングル時代に成長痛でジャンプに苦しみ、ペア転向後も「非力くん」と呼ばれた過去を持つ
- 2019年の三浦選手との出会いが転機となり、ジャンプを含む全技術が飛躍的に向上した
- 名古屋の山一ハガネが製造する国産ブレード「翔」が、ジャンプの安定性と耐久性を支えている
- ミラノ五輪SPではリフトのタイミングのズレにより5位に沈んだが、フリーで史上最大の逆転劇を演じた
- 五輪金メダルにより羽生結弦以来のゴールデンスラムを達成し、日本フィギュア史に新たな金字塔を打ち立てた
- りくりゅうの成功は日本のペア競技全体の発展を促し、次世代への道を切り開く歴史的偉業である

